右翼と左翼について
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以下は某作家さんへ向けて書いた文章だ。 わりと古いもので2010年7月1日とある。 今回、「作家生活オンライン」新装開店を記念して、公開してみる。 電子書籍についてなのだが、結構、幅の広い話だと思う。 ******* ******* > 例えば、ニコニコ動画が出来て音楽や映像作品を公開してフィードバックを > 得られる場所が出来たことで、そっち方面のアマチュア作家は結構ハッピー > になったと思うわけです。 > 見た人からのフィードバックがうれしいというのが重要っぽい。 > > ところが、原稿をアップロードして「電子書籍」という形で公開し、 > それについてのコメントが得られる仕組みが用意されたとしても、 > どうも文章系のアマチュア作家はみんながみんなハッピーになるわけでは > ないような気がする。 > > だけど、ハッピーになる人ととそれでは満足出来ない人の両方がいて、 > 単に数の問題がまだ見えてきていないだけなのかが分からない。 > > という感じで、もやもやが増える今日この頃です。 えー、ちょっと考えてみます。 SNSで、小説をネット公開する方法を聞いている人がいまして、それについて、「自作をネット公開するメリットは?」と真剣にツッコんでる人がおりました。 世の中には自作を公開したくない、読んで欲しくない人が実在するわけです。そういう人は作家になることが目的なのであって、小説を誰かに読んでもらうことが目的なのではありません。その種の人を、ここでは仮に「右翼」と呼びます。 右翼にとって、ネットで自作を読ませるなどということは、大事の前の小事です。作家になれば何万人もの読者を得るのですから無理もありません。その右翼こそが日本の素人作家の保守本流だと思います。 一方で、こんな人もいます。 日記とか投稿サイトに、長編小説の第1部第一章の冒頭部分二十数行をアップして、「読んで読んで」「感想ください」という人です。 読んで感想ったって、二十行しかないだろう、とは思うのですが、そういう人はコメントをもらうと大喜びです。仮にそういう人を「左翼」と呼びます。 左翼の中でも極左とでも言うべき人は、(いるかどうか知りませんが)ツイッターで小説をつぶやく人です。もはや小説というのは現象に過ぎない。波が広がるがごとく、言葉が伝わっていけばそれでよい。その人にすれば、作品など、残すとか残さないとか、そういう物ではないわけです。 この、左翼と右翼を両端として、線分上のどこかに、たいていの素人作家は存在するわけです。「何か崇高な動機で執筆してる人」という例外があるとは思いますが、ここでは考えないことにします。 線分上では特に断絶などはなく、グラデーションのように、「左翼がかった人」や「右翼がかった人」がいるわけです。 では、電子書籍のような発表媒体が増えて、ハッピーになるのはどんな人でしょうか? 当然、左翼がかった人です。「読んで読んで」と「レスポンス」に喜ぶのは左翼です。 私は左翼に属する人間なので、ここからは、左翼から見た右翼像の話になります。 今のところ、右翼は電子書籍ではハッピーになりそうもありません。しかしながら、事態を複雑にしているのは、電子書籍という媒体が右翼と親和性があるのではないかということです。 それはこういうことです。今までのケータイやらネット公開と比べて、電子書籍はローカルに落として曲がりなりにも書籍という形をとる点が違います。 左翼にとっては、どこが違うの? ってなもんですが、右翼にとっては作品が読者に所持されるという事は、大きな意味を持つでしょう。 右翼はネットで作品を読んでもらいたいわけではないと書きましたが、右翼が求めるものは、アイデンティティーの確立であり、自己実現です。ありていに言えば、作家という人種になりたいのです。それは、ネットで小説を書いて読ませる人とイコールではありません。 その右翼を電子書籍でハッピーにするには、例えば、電子書籍大賞のような賞を設け、「あなたは作家になりました」というお墨付きを与えることです。 また、次世代EPUBで、縦書き表示がサポートされて、より書籍らしくなれば、風向きががらりと変化して右翼が参入、ハッピーな人が増えるという事になるかもしれません。 しかし右翼が右翼でいるかぎり、「みんなハッピー」には決してなりません。右翼というのは、作品が読まれることではなく、特別な人間であることを自分で確認することにより、ハッピーになるのです。ということは必ず、ハッピーになる人間となれない人間が出ます。 ※(中略) 右翼と左翼の勢力を考えると、現在多くの素人作家は圧倒的に左翼でしょう。その数は時代を下るほど増えていると思います。しかしながら、性質上、質の高い作品を生み出すのは、少数の右翼の方かもしれません。このあたりは何とも言えないです。右翼は作品を公開したがらないのですから。 ******* ****** この文章から四年たった。 ツイッター小説はとっくに実在し、ツイッター競作イラストまであるご時世だ。 電子書籍は某ワープロソフト等であっさり作れるようになり、普通にインディーズ出版されている。それでも売れてるのは出版社が出しているプロの電子書籍なのだが。 ラノベレーベルでは今や投稿小説サイト出身の作家がかなり出ている。ネットで読んだファンにイラストをつけた本を売るのは手堅い商売になるからだ。 そして、この「作家生活オンライン」の登場となったのである。 がんばれ運営者! |